潰瘍性大腸炎

「潰瘍性大腸炎」は、大腸の粘膜にびらん(ただれ)や潰瘍ができて、下痢・血便・腹痛などの症状が慢性的に生じる病気です。炎症性腸疾患のひとつで、厚生労働省による“難病指定”を受けています。

発症原因は未だ分かっていませんが、これまでの研究で、遺伝的要因やストレス・寝不足などの環境因子、免疫異常など様々な要因が複雑に関係して発症すると考えられています。2013年時点で日本での患者数は約17万人(人口10万人に100人程度)であり、年々増加しています。そのうち約90%が「軽症~中等症」の患者さんです。

日本消化器病学会によると、患者さんの男女差はなく、比較的20~30代の発症が多いですが、近年は40代以降の方の発症も増えているとの報告があります。

「潰瘍性大腸炎」には、症状が強く出る時期(活動期)と落ち着く時期(寛解期)があります。薬物療法をきちんと続けることで、症状が落ち着いている状態を長く維持することが可能な病気でもあります。

つらい便通異常や不快症状でお悩みの方は、お気軽に当院までご相談ください。

「潰瘍性大腸炎」の症状と重症度

主な症状

「潰瘍性大腸炎」の主な症状は、下痢・血便(血が混じった便)・腹痛です。

大腸の炎症が強くなると、発熱や体重減少、頻脈、貧血などの全身症状が現れてきます。 また、激しい炎症が続いたり、腸管壁の深くまで炎症が進んだりすると、大腸からの大量出血や大腸の狭窄・穿孔、中毒性巨大結腸症といった合併症が起こることがあります。

その他、腸管外合併症として、皮膚の症状、関節や眼の症状、口内炎などがあります。

重症度

  • 軽症
  • 排便回数が1日4回以下、血便はあってもわずか、全身症状(発熱・貧血・頻脈など)はない。

  • 中等症
  • 軽症と重症

  • 重症
  • 排便回数1日6回以上、明らかな血便(出血)や全身症状が現れる。

「潰瘍性大腸炎」の炎症の広がり方

潰瘍性大腸炎による大腸粘膜の炎症は、直腸から始まっていき、上(口)の方に向かって連続して広がっていきます。

直腸炎型

罹患範囲が狭いので、下痢にはなりにくく、便に少し血液が付いたり、いちごジャムのような粘液便(ねばねばした便)が出たりします。

左側大腸炎型

頻回の便意や残便感を感じる方も増えてきます。

全大腸炎型

炎症範囲が広がり、便を固めることができず、下痢となります。炎症の程度が強くなると血性の下痢が生じ、発熱・貧血などの全身症状を伴うことがあります。

「潰瘍性大腸炎」の原因とは?

大腸に炎症を起こす原因は、いまだ明らかになっていません。

しかし、現在までの研究によると、原因は一つではなく、次のような要因が複雑に絡み合って発症していることが分かっています。

ストレスや寝不足などの環境因子

強いストレスを感じたり、寝不足が続いたりすると、自律神経のバランスが崩れ、症状を悪化させる要因となります。

遺伝的要因

今日まで特異的遺伝子の解明には至っていませんが、家庭内(親子・兄弟など)での発症も認められています。欧米では、潰瘍性大腸炎患者さんの血縁者の約20%に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎またはクローン病)罹患者がいるという報告もあります。

※一つの遺伝子が発症原因ではないので、必ずしも遺伝するわけではありません。

免疫異常

免疫の異常が発症の要因の一つであると分かっていますが、自己免疫異常を起こす原因は、まだ明らかになっておらず、現在も世界各国で研究が続けられています。

「潰瘍性大腸炎」の検査

「潰瘍性大腸炎」検査の流れ

「潰瘍性大腸炎」と似た別の病気を鑑別するため、臨床症状以外にも血液検査や画像検査・便検査を組み合わせて、総合的に判断します。

問診

自覚症状や発症時期、反復性など症状に関することのほか、家族歴、最近の海外渡航歴などについても詳しくお伺いします。

一般臨床検査(血液検査・便潜血検査・便培養検査・便中カルプロテクチン検査)

貧血や炎症所見・出血の有無を確認します。

便潜血検査では、目に見えないようなごく少量の血液が便に混じっているかどうかを調べます。

便の細菌培養検査を行い、他の細菌性腸炎との鑑別を行います。便中カルプロテクチン検査では、内視鏡を行う前に腸管の炎症程度を把握する事が出来ます。

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

免疫の異常が発症の要因の一つであると分かっていますが、自己免疫異常を起こす原因は、まだ明らかになっておらず、現在も世界各国で研究が続けられています。

他の腸炎や大腸がんなどの病気を区別する必要があり、潰瘍性大腸炎の診断には欠かせない検査です。大腸粘膜の炎症具合や炎症範囲を確認します。臨床症状が落ち着いていても、大腸粘膜にはまだ炎症が残っている場合があり、診断後も定期的に受けることが大切です。

当院の大腸内視鏡検査は、消化器内視鏡専門医である院長が担当します。ご希望があれば、鎮静剤を使用しての内視鏡検査も可能です。

当院では患者さんに合わせて内視鏡(ファイバー)が選択できるように、拡大観察機能が付いた内視鏡と細くて軟らかい内視鏡の2本を常備しています。

二酸化炭素を送気しながら観察するので、検査後のお腹の張りが軽減されます。

また、専用の自動洗浄装置を使い、学会のガイドラインに沿った内視鏡の洗浄・消毒を行っているので、安心して内視鏡検査をお受けいただけます。

「潰瘍性大腸炎」の治療について

潰瘍性大腸炎の治療は、病期(活動期・寛解期)・病変範囲・重症度によって、決定します。

潰瘍性大腸炎の治療の中心は「薬物療法」であり、大腸粘膜の異常な炎症を抑え、症状をコントロールすることを目的としています。

薬物治療

潰瘍性大腸炎患者の約90%の方が軽症もしくは、中等症にあてはまります。軽症~中等症の活動期の症状(下痢や血便、腹痛など)を抑え、再燃を予防し症状を落ち着かせる目的として広く使われるものが5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)です。

5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)には、内服薬と座薬や注腸製剤(肛門から注入する薬)の局所製剤もあります。内服薬だと大腸の後半(直腸やS状結腸など)に薬剤が届きづらい場合があり、局所製剤と併用することがあります。また、直腸炎型(直腸のみ炎症がある)の場合には、座薬や注腸製剤のみでの治療も可能です。

5-ASA製剤で効果が出ないような中等度~重症患者さんにはステロイド剤を使用します。炎症を抑え込む作用が強く、約6~8割の方に効果が見られます。長期使用は副作用のリスクを高めるので、必要な時期に必要なだけ使用します。内服薬や注射剤の他、5-ASAと同様に局所製剤もあります。

ステロイドを中止すると悪化してしまう、ステロイドが効かない等、なかなか炎症が収まらないような場合は、「生物学的製剤」・「免疫抑制剤」・「免疫調整剤」が有効です。過剰になっている免疫反応を抑えます。免疫調整剤は、寛解期の維持療法に効果があります。

白血球除去療法

主に、薬物療法で効果が得られない場合に検討されます。血液を腕の静脈からいったん体外に取り出して、活性化した白血球を取り除いた後、再び体に戻す治療法です。

外科的治療(手術)

薬物療法の効果が出ず重症化している場合、副作用によって内科治療が行えない場合、大量出血や腸管穿孔などの合併症を生じてしまった場合、大腸がんを合併した場合などは、外科的治療(大腸全摘手術)が必要になります。

手術が必要となる場合には、近隣の対応している病院をご紹介します。

よくあるご質問

潰瘍性大腸炎になったら、日常生活での注意点はありますか?

  • 疲れやストレスを溜めず、規則正しい生活を心がける
  • 心と体に疲労が溜まることで、症状が再び出てくる可能性も否定できません。しっかり睡眠を取って、適度にストレスを発散しながら、過ごすことが大切です。

  • 1日3食、バランスのよい食生活を送る
  • 症状が起こっている活動期には、腸管を刺激しないようにするため、3S(繊維・脂肪分・刺激物)を避けましょう。

    例)ごぼうや海藻類などの繊維もの、ばら肉、ベーコン、ロースハムなどの脂肪分の多い肉、香辛料やコーヒー・アルコール・紅茶、乳製品などは控えめに。

    一方で、ごはんや・おかゆ・うどんなど消化の良いもの、かれい・ひらめ・鯛などの白身魚やあじ・まぐろなど魚料理、豆腐、卵など高たんぱく食品がおすすめです。

なお、症状が治まっている寛解期には、食事や運動に特別な制限はありません。

まとめ

潰瘍性大腸炎は完治が難しい病気ですが、治療により普通通りの生活を続けることができる可能性が高い病気です。

毎日、薬をきちんと飲み続けた人の2年間の寛解維持率(症状が落ち着いた状態を保っていた率)は約90%ですが、飲み忘れが多かった人は約40%であったという報告があります。ですから、自覚症状がなくなった後も忘れずきちんと毎日薬を飲み続けましょう。

また、大腸粘膜の炎症が長期間続くことで大腸がんを合併するリスクが高くなるので、定期的に内視鏡検査を受けることも大切です。

下痢・血便・腹痛などの症状が出ている方、便通異常で日常生活に支障を来している方は、お気軽に当院までご相談ください。