糖尿病

糖尿病は、膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモン「インスリン」が十分に働かないことによって、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が慢性的に続く病気です。
2016年の厚生労働省の調査*1によると、糖尿病有病者および予備軍の方は合わせて約2,000万人に上るとされています。

*1(参考)平成28年「国民健康・栄養調査」より
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html

「糖尿病になると、尿から甘いにおいがする」というのは重症になってからの話であり、初期の糖尿病は自覚症状がほとんど現れません。
血糖値が高い状態が続くと、動脈硬化を引き起こし、神経障害、足の壊疽、腎不全、網膜症のほか、心筋梗塞や脳卒中など命の危険に繋がるような合併症が現れてきます。また、糖尿病は、癌や認知症のリスクにもなります。

しかし、糖尿病になっても血糖値をしっかりコントロールすることで、糖尿病ではない人と同じように、健康上の問題による制限を受けずに日常生活を過ごすことが期待できます。
血糖コントロールをするためには、食事療法・運動療法など生活習慣の改善を基本として、薬物治療を併用します。

健康診断で血糖値の異常が見つかった方、ご家族に糖尿病の方がいて心配な方など、血糖値に関するご心配事がある方は、お気軽に当院までご相談ください。

糖尿病について

血糖とインスリンの関係

主に肝臓から作られている「糖」は、血液によって様々な臓器・組織へ運ばれています。
膵臓で作られているホルモン「インスリン」の働きによって、糖は細胞に取り込まれ、私たちが活動するための「エネルギー源」となります。
インスリンが正常に分泌され、適切に働いているからこそ、血液中の血糖値は一定に保たれています。

糖尿病の定義・診断

日本糖尿病学会では、血糖値を「糖尿病型」「境界型」「正常型」の3段階に分類しています。糖尿病型を2回確認するなど、一定の条件を満たすと、糖尿病の確定診断となります。

  • 糖尿病型(いずれか1つでもあれば)
  • ①空腹時血糖値:126mg/dL以上

    ②ブドウ糖負荷後2時間の血糖値:200mg/dL以上

    ③随時血糖値(食事と採血時間の関係を問わず測定した値):200mg/dL以上

    ④HbA1c(血中の糖化ヘモグロビンの割合):6.5%以上

  • 正常型
  • 空腹時血糖値:110mg/dL未満およびブドウ糖負荷2時間後血糖値:140mg/dL未満

糖尿病型と正常型のどちらにも属さない場合には、「境界型」となります。

糖尿病の症状

糖尿病であっても、初期には自覚症状が現れません。
しかし、実際には静かに少しずつ血管の動脈硬化が進んだり、腎臓の働きが悪くなったりしています。喉が渇く・よく水を飲む、尿の回数が増える、食べているのに体重が減る、体がだるい・疲れやすいなどの症状は、高血糖状態が続いているサインかもしれません。
これまでとは違う症状が出始めたら、早めに医師にご相談ください。

糖尿病の種類

糖尿病は、大きく分けて2つのタイプに分類されています。

  • 1型糖尿病
  • 子ども・青年・痩せ型の方を中心に幅広い年代で、突然発症します。膵臓のβ(ベータ)細胞に障害が起こることによって、インスリンを作れなくなる「インスリン欠乏」が原因です。これまでのところ、β細胞に障害が起こる要因は明らかになっていませんが、自己免疫との関連性が指摘されています。インスリンが足りないため、体外から注射によってインスリンを補う必要があります。

  • 2型糖尿病
  • 糖尿病患者さんの大部分を占め、中高年に多く、生活習慣病の一つと考えられています。遺伝や環境要因による「インスリンの分泌低下」「インスリンの効きが悪いこと(インスリン抵抗性)」が原因です。発症早期は自覚症状が現れないことも多く、気付かないうちに進行しています。

  • 妊娠糖尿病
  • 妊娠糖尿病は、糖尿病ほどではない、軽い糖代謝異常のことです。妊娠すると、胎盤から出るホルモンが影響して、インスリンが効きにくくなり、血糖値が高くなることがあります。多くの場合、出産後に戻りますが、妊娠糖尿病を経験された方は、経験されていない方に比べ、将来の糖尿病リスクが高くなるとされています。

糖尿病の原因

1型糖尿病はインスリンを作るβ細胞の障害が要因となり、2型糖尿病は遺伝因子と環境因子に影響し合い発症しています。
2型糖尿病の発症リスクを高める主な要因は、次の通りです。

遺伝的要因

血糖値を下げるためのホルモン「インスリン」が遺伝的に分泌されにくい方がいます。

加齢

1歳年を取ることに、男女とも発症リスクは2%上昇するという報告*2があります。

肥満

肥満になると、十分な量のインスリンが分泌されていても働きが悪くなり、血糖値が下がらなくなります。BMIが1kg/m²増えると、男性・女性とも17%上昇するという報告*2があります。

喫煙・飲酒

1日20本以上タバコを吸う方や1日1合以上飲酒する方は、しない方に比べ、発症リスクの上昇がみられたとする報告*2があります。

*2(参考)糖尿病リスクを高める要因は?|財団法人 国際協力医学研究振興財団
http://dmic.ncgm.go.jp/center/030/diabepamph_h22.pdf

ほかにも、睡眠不足、疲労など不規則な生活習慣や精神的ストレスも、2型糖尿病の発症に影響を及ぼします。

糖尿病の検査

当院は、日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインに準拠した検査を行っています。
問診や血糖値検査・尿検査のほか、必要に応じた検査を組み合わせて行い、糖尿病の状態・合併症の有無などについて調べます。
※全ての検査を初診時に行う訳ではありません。また、当院にて実施できない検査は、提携病院に紹介させていただきます。

問診

自覚症状の有無、体重変化、既往症のほか、喫煙・飲酒・運動などの生活習慣、ご家族に糖尿病の方はいるかなど、詳しくお伺いします。

血糖測定検査

採血をして、血糖値とHbA1c値*3を測定します。血糖値検査には3つの方法があります。

*3HbA1c値:赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合で、高血糖状態が続くと増える。値から1~2ヵ月前の血糖の状態が分かる。

  • 空腹時血糖値
  • 朝食を抜いて測定します。インスリンの働きの指標となります。

  • 随時血糖値
  • 食事時間とは無関係に測定し、測定値から食後血糖値の推移を推定します。

  • ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)
  • 空腹時に75gのブドウ糖水を飲み、30分後、1時間後、2時間後の血糖値を測定します。

尿検査

尿中の糖を調べます。血糖値がかなり高くなると、尿に糖が出ます。

そのほか、糖尿病合併症の検査として、次のようなものがあります。

  • 動脈硬化検査(ABI)
  • 両腕と両足首の4か所同時に血圧を測り比べ、「動脈硬化」の状態を調べます。足の血流障害によって足が壊疽(えそ:組織が腐ってしまうこと)することもあり、足の切断を迫られることもあります。

  • 頸動脈超音波検査
  • 脳卒中・心筋梗塞のリスクを調べる検査です。頸動脈とは、首の動脈のことで、動脈硬化を起こしやすい部分です。

  • 尿中微量アルブミン検査・尿蛋白(たんぱく)検査
  • 「糖尿病腎症」を調べる検査です。腎臓機能に異常が起きて腎症が進行すると、本来老廃物だけを排出するはずの尿に、タンパク質も含まれるようになります(尿蛋白)。尿中微量アルブミン検査は、尿蛋白の主成分「アルブミン」を微量でも検出できるため、通常の尿検査よりも早い段階での腎症発見が期待できます。

  • 眼底検査
  • 「糖尿病網膜症」を調べる検査です。適切な血糖コントロールをすることで、網膜症の進行を食い止めることが期待できます。

糖尿病の治療について

糖尿病の治療の基本は、食事療法や運動療法により、適正な血糖値にコントロールすることです。
当院は無理なく続けていけるよう、患者さんとよく話し合いながら、治療を進めています。

食事療法

糖は食事によって体に取り込まれます。カロリー制限だけでなく、食べる順番、規則正しく食事を摂るなど、食事の仕方ひとつでも、血糖値は変わっていきます。
糖尿病治療は、糖の量やエネルギーバランスを調整しながら食事をすることが重要です。

運動療法

食事によって取り込んだエネルギーは、運動で消費することが大切です。2型糖尿病は筋肉がつくことにより、インスリンの働きを活性化することが期待でき、1型糖尿病でも運動はストレス発散や体全体の健全化に役立ちます。

薬物療法

生活習慣の見直しだけでは血糖値がコントロールできない2型糖尿病の方や1型糖尿病の方には、血糖値を下げるために薬物療法(内服薬・注射薬)を行います。
患者さんの糖尿病の病態(インスリン分泌能力の低下・インスリン抵抗性など)を総合的に判断して、組み合わせて使用します。

血糖降下薬の種類  
ビグアナイド薬 肝臓で糖分を作る糖新生という作用を抑える働きや、筋肉での糖の活用を促して血糖値を下げる働きがあります。高齢者、心臓・肝臓・腎臓機能の低下がある方は、脱水に注意が必要です。
チアゾリンジン薬 膵臓から分泌されるインスリンに対する感受性を改善させ、筋肉や脂肪などでのインスリンの効きをよくする働きがあります。
スルホニル尿素薬(SU薬) 膵臓にあるβ細胞に作用し、インスリンの分泌を促進させて血糖を下げる働きがあります。
DDP-4阻害薬 インクレチンというホルモンを分解する酵素(DPP-4)の働きを抑える事でインクレチンの働きを強め、インスリン分泌を増やしたり、血糖値を高めるグルカゴンの分泌を抑える働きがあります。
速効型インスリン分泌促進薬 膵臓のβ細胞に作用して、インスリンの分泌を促進させる働きはSU薬と同じですが、作用がみられる時間がSU薬より早いという特徴があります。
速効型インスリン分泌促進薬は指示された食直前(食事をする直前5〜10分前)での服用をお願いします。食事時以外に服用すると、低血糖*4を起こすことがあるので注意してください。
αグルコシダーゼ阻害薬 小腸でのブドウ糖の分解・吸収を遅らせて、食事後の急激な血糖値の上昇を抑える働きがあります。
SGLT2阻害薬 腎臓にある尿細管で尿中に排出された糖分の再吸収を阻害し、尿と一緒に排出させる働きがあります。

*4低血糖:血糖が下がり過ぎて、手足の震え、動悸、異常な空腹感、場合によっては意識障害など引き起こします。その際は、速やかにブドウ糖・砂糖・ジュースなどで糖分摂取を行う。

自己判断で薬を中止したり、減量したりすることは危険です。
薬で気になる点がある場合には、医師またはスタッフまで、お気軽ご相談ください。

よくあるご質問

血糖コントロール以外にも気を付けることはありますか?

肥満・高血圧・脂質異常症に注意が必要です。いずれも動脈硬化や内臓などに影響を及ぼす恐れがあります。また、喫煙も動脈硬化を進行させる要因の一つです。生活習慣を見直し、できることから気を付けてみましょう。

食事療法のポイントは?

食事療法というと、難しそうに感じる方もいるかもしれませんが、難しく考えず、毎日の食事でちょっとした心がけを行うことが、長続きするコツです。

  • 食事は、腹八分目を意識する
  • 規則正しく1日3食、ゆっくり噛んで食べる
  • 主食・主菜・副菜で栄養バランスの良い食事をする
  • 海藻・キノコ・野菜など食物繊維が多く、消化に時間のかかるものから先に食べ、米・パン・麺類など炭水化物は最後に食べる
  • 糖尿病食事療法のための食品交換表を活用する

まとめ

糖尿病は、失明・透析・足の壊死・心筋梗塞・脳梗塞につながることもある病気です。
しかし、糖尿病になっても、HbA1c値が7%未満になるよう、しっかり血糖コントロールを行えば、危険な合併症を防ぎ、健康で元気に過ごすことができます。
また、薬物療法を行っていても、治療の基礎となるのは「食事と運動」です。規則正しい食事習慣や軽い運動の日常化は、糖尿病治療のためだけでなく、体の健全化にも役立つことなので、できることから取り入れてみましょう。

そして、頑張りすぎて、無理することなく、治療を続けることも大切です。
当院では、患者さんが無理なく治療が続けられるよう配慮した診療を行っています。
血糖値に関してご心配事がありましたら、お気軽にご来院ください。