高血圧
高血圧は、血圧が高い状態が続くことをさし、生活習慣病の最大のリスク要因です。
高血圧の怖いところは、基本的に自覚症状が現れないことであり、「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています。
高血圧が続くことにより動脈硬化を生じ、次第に脳疾患(脳出血・脳梗塞)、心臓病(狭心症・心筋梗塞・心不全)、腎不全、眼底出血、閉塞性動脈硬化症など、命の危険に繋がるような合併症が現れてきます。
高血圧の治療には、生活習慣の改善と共に、血圧を下げるお薬を使用します。
また、高血圧による合併症を予防するには、長期的に血圧コントロールを行う必要があります。
健康診断で高血圧や動脈硬化を指摘された方、ご家族に高血圧の方がいらっしゃるなど、血圧に関するご心配事がある方はお気軽に当院までご相談ください。
高血圧について
血圧のしくみ
血圧とは、血液が動脈を流れるときに血管内にかかる圧力のことです。
全身に血液を送るために、たえず心臓は収縮と弛緩(しかん:ゆるむこと)を繰り返しています。
よく「血圧の上・下」と呼ぶことがありますが、上の血圧とは心臓が収縮して血液を全身に送り出したときの「収縮期血圧(最高血圧)」のことで、下の血圧とは心臓が弛緩している時の「拡張期血圧(最低血圧)」を意味しています。
(図)心臓の収縮・拡張について
左:収縮期血圧(最高血圧) 右:拡張期血圧(最低血圧)
高血圧の定義・診断
日本高血圧学会の診断基準では、正常血圧を120/80mmHg未満(診察室血圧)と設定し、次のように高血圧を定義しています。
- 病院での測定値……診察室血圧
- 自宅での測定値……家庭血圧
何度か測定して、最高血圧が140mmHg以上、または最低血圧が90mmHg以上
5~7日測定した平均値で、最高血圧が135mmHg以上、または最低血圧が85mmHg以上
ただし、上記の基準外であっても診察室血圧が130/80mmHg以上、あるいは、家庭血圧が125/75mmHg以上の方は、それ以下の血圧の方よりも脳心血管疾患の危険性が高いと言えます。
放置せず、生活習慣を見直して、血圧コントロールを始めましょう。
高血圧の症状
高血圧であっても、ほとんどの方には自覚症状がありません。
しかし、実際には静かに少しずつ血管の動脈硬化が進んだり、腎臓の働きが悪くなったりしています。早朝の頭痛、夜間の頻尿、呼吸困難、めまい・ふらつき、足の冷えを感じるなどの症状は、高血圧による合併症のサインかもしれません。
これまでとは違う症状が出始めたら、早めに医師にご相談ください。
高血圧の種類
高血圧には、高血圧患者さんの大半を占め、原因を特定できない「本態性高血圧」と、腎臓や内分泌などの病気・睡眠時無呼吸症候群が原因となっている「二次性高血圧」があります。
二次性高血圧は、本態性高血圧症に比べて若い人に多く、原因となっている病気を治療すれば血圧の正常化が期待できます。
高血圧の原因
血液の量が多くなること、動脈硬化によって血管が細く硬くなることで、血圧は上がります。血圧を上げる要因には様々ありますが、主な要因は次のとおりです。
過剰な塩分摂取
塩分を摂りすぎると、血液量が増えたり、血管を収縮させるホルモン反応を高めたりします。
加齢
加齢は動脈硬化を早める危険因子の一つです。血管壁は弾力性を失って硬くなり、内腔も狭くなったり広がったりしやすくなります。
家族性要因
高血圧の発症には家族性要因が60%*1あると報告されています。これには、遺伝子による遺伝的要因だけでなく、家族で同じような生活環境(濃い味付けを好む、偏食・過食による肥満が多い、運動不足など)であることが関与していると考えられてます。
*1(参考)一般向け高血圧治療ガイドライン2019解説冊子|日本高血圧学会ほか
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf
肥満
過食によって、過剰な塩分摂取やインスリン分泌が行われています。さらに血管を収縮させるホルモンを分泌しやすくなります。肥満の方は、そうでない方に比べ、2~3倍高血圧の方が多いと報告されています。
ストレス(心理的要因)
精神的・肉体的ストレスを感じ続けると、交感神経機能が必要以上に活発になり、心臓も反応するために心拍数も増加させます。
ほかにも、次のような因子も血圧の上昇に影響を及ぼします。
- 喫煙、過度な飲酒、睡眠不足、疲労など不規則な生活習慣
- 急激な温度変化(ヒートショック現象)
- 排便時に力むこと
- 動脈硬化などの病気
- 激しい運動
※寒い脱衣所で脱いだり、熱い湯船に急に入ったりしたとき、暖かい室内から寒い外に出たときなど、温度差による血圧変動に注意が必要です。
高血圧の検査
当院では、日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインに準拠した検査を行っています。
問診・血圧測定
心臓の聴診のほか、自覚症状など現在と過去の健康状態や生活習慣について、詳しくお伺いし、診察室血圧を測定します。
各種検査
次のような検査を行って、全身の臓器の状態のチェックや高血圧合併症の有無、高血圧の原因となる腎臓・ホルモン異常の有無を調べます。必ずしも全ての検査を初診時に行うわけではありません。通常の降圧剤の治療に反応しない場合など、状態に応じてさまざまな追加検査を行っていきます。また、当院にて実施できない検査は、提携病院に紹介させていただきます。
- 血液検査
- 心電図
- 胸部レントゲン
- 心エコー
- 尿検査
- ABI検査(動脈硬化検査)
高血圧と共に動脈硬化を引き起こす脂質異常症、糖尿病の有無、腎臓機能低下やホルモン異常を調べます。
心筋梗塞、心房細動などの不整脈(脈の乱れ)、心肥大(心臓の筋肉が厚くなる)などの有無を調べます。
心肥大・心不全の有無などを調べます。
心臓のポンプ機能、弁膜症、心肥大などの構造異常を調べます。
腎臓への負担、腎臓病の有無、ホルモン異常などを調べます。
両腕と両足首の4か所同時に血圧を測り、血圧の比を比べることで動脈硬化の状態を調べます。
高血圧の治療について
高血圧の治療は、放置しておくと将来起きてしまうかもしれない脳卒中・心筋梗塞などの脳心血管疾患の予防や、腎機能の悪化などを防ぐために行います。
生活習慣の改善
塩分制限・減量・節酒・運動など生活習慣を見直すことから始め、当院では患者さんとよく話し合いながら、治療を進めていきます。
薬物療法
生活習慣の見直しを試みても、血圧が下がらない方、合併症リスクが高い方、既に高血圧に伴う脳心血管疾患がある方の場合には、「降圧剤」で血圧を下げる治療を行います。
降圧剤にはたくさんの種類がありますが、患者さんの血圧レベル・合併症の有無など総合的に判断して、組み合わせて使用します。
降圧薬の種類 | |
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カルシウム拮抗薬 | 血管平滑筋を弛緩し血管を拡張してくれる働きがあります。服用される薬剤によっては、グレープフルーツと一緒に飲むと、薬の効果が強くでてしまい、副作用が出やすくなることもあります。 |
ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬) | アンギオテンシン(昇圧系)を抑制し、降圧作用がみられます。また、妊娠中の方は服用しないようにしてください。 |
ACE阻害薬 | アンギオテンシン(昇圧系)の抑制とブラジキニン(降圧系)の作用増強効果がみられます。ARB同様に妊娠中の方は服用しないようにしてください。 |
利尿薬 | 余分な水分やナトリウムを尿中へ排泄し、身体中を循環している血液量を減らしてくれるため、心臓への負担軽減による降圧作用があります。 |
β遮断薬 | 心拍出量を抑え、心臓への負担軽減がみられます。また、血管平滑筋の収縮を弱めて血管を拡張する効果があります。 |
自己判断で薬を中止したり、減量したりすることは危険です。
薬で気になる点がある場合には、医師またはスタッフまで、お気軽ご相談ください。
また、当院では血圧をWelbyという携帯アプリでサポートしております。詳しくは下記のバナーよりご覧ください。
よくあるご質問
高血圧だと、頭痛・めまい・肩こりが起こりますか?
血圧がかなり高いときには、頭痛・めまい・肩こりが起こりやすくなることもありますが、これらの症状は高血圧とは関係なく現れることも多く、高血圧が原因とは限りません。
自宅で血圧を測るときのポイントは?
家庭血圧を管理しておくことは、高血圧の病態を正確に診断する材料や治療効果を高めることにつながるので、是非記録しておきましょう。
- 朝/夜の1日2回、座ってから1~2分後に測定する
- 上腕に巻くタイプの血圧計がおすすめ(手首での計測は不正確になりがち)
- 心臓とカフ(巻くところ)を同じ高さにする
- 測定前には、喫煙・飲酒・カフェイン摂取はしない
塩分制限(減塩)生活はどうすればよいのでしょうか?
高血圧の患者さんは、1日の塩分摂取量を6g未満にすることが目標です。とはいえ、急激に厳しい減塩を行うと、体調を崩すこともあるので、少しずつ摂取量を落としましょう。
- コショウ・七味・生姜・レモンなど、香辛料・香味野菜・かんきつ類を利用する
- 酢・ケチャップ・マヨネーズなど低塩の調味料を使用する
- 外食や加工食品などを控える
- むやみに調味料を使わない
- 麺類の汁は残す
- 過食を避ける
- みそ汁は具沢山にすると、減塩できる
醤油やソースなどは「かける」のではなく、「つけて」使います。
全部残せば、2~3gの減塩になります。
まとめ
高血圧は「サイレントキラー」として、症状がないまま、動脈硬化や腎臓機能の低下を進行させますが、遺伝的に高血圧になりやすい方でも、生活習慣の改善を中心とした適切な治療を行うことで多くの合併症予防が可能となります。
また、「降圧剤の服用が始まったら、一生服用しなければいけない」と思われる方も多くいらっしゃいますが、生活習慣の改善を続け、正常血圧を維持できるようになれば、薬を徐々に減薬・中止することも可能なのです。
血圧に関してご心配事がありましたら、お気軽にご来院ください。