脂質異常症
脂質異常症は、中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝に異常が起こった状態のことであり、以前は「高脂血症」と呼ばれていました。
厚生労働省の調査(2017年)*1では、脂質異常症により治療を受けている総患者数は推定約220万人に上り、男女比をみると女性は男性の2.4倍多いと報告しています。
*1(参考)平成29年「患者調査」より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/05.pdf
ほとんどの脂質異常症は、自覚症状がありません。しかし、脂質異常が続くと動脈硬化の原因となり、動脈硬化によって脳梗塞や心筋梗塞、狭心症など命にかかわる危険な合併症を招くリスクが高くなります。
脂質異常症は、遺伝、乱れた食生活、過度な飲酒、運動不足、ストレスなどの生活習慣が発症要因となるため、治療では食事療法・運動療法など生活習慣の改善を基本として、必要に応じて薬物治療を併用します。
健康診断により中性脂肪やコレステロール値の異常が見つかった方、ご家族に脂質異常症の方がいて心配な方など、お気軽に当院までご相談ください。
脂質異常症について
脂質異常症とは、体の中で脂質がうまく処理されない、食事からとる脂質が多すぎるなどの理由によって、血液中の脂質バランスが崩れてしまう病気です。
脂質とは?
脂質は、体になくてはならない栄養素のひとつであり、脂質には中性脂肪やコレステロールなどの脂肪分が含まれます。
また、通常、血液中の脂質(血中脂質)は、肝臓によって一定の量に調整されています。
- 中性脂肪
- コレステロール
体が活動するためのエネルギー源、皮下脂肪として体温保持の役割を果たしています。
必要以上に皮下脂肪が溜まると「肥満」となり、肝臓に溜まると「脂肪肝」として、肝臓の働きが悪くなります。
細胞膜を構成する成分であり、ホルモンや脂肪の消化・吸収に必要な胆汁酸の原料でもあります。
コレステロールは主に2種類あり、血管・組織から不要となったコレステロールを回収して肝臓へ戻す役目の「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」と、血管や組織へコレステロールを運ぶ役目のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)です。
このように、中性脂肪・コレステロールのどちらも体にとって、無くてはならない働きをしていますが、一方で増えすぎると動脈硬化の原因となります。
脂質異常症の定義・診断
日本動脈硬化学会では、脂質異常を3つのタイプに分け、空腹時の採血データが以下のいずれかの場合を「脂質異常症」と定義しています。
- 高LDLコレステロール血症
- 低HDLコレステロール血症
- 高トリグリセライド(中性脂肪)血症
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が多く、140mg/dl以上
HDLコレステロール(善玉コレステロール)が少なく、40mg/dl未満
脂質異常症の症状
脂質異常症となっても、ほとんどの方には自覚症状が現れません。
しかし、脂質異常によって、少しずつ血管の動脈硬化が進むと、狭心症・心筋梗塞などの心疾患や、脳梗塞・脳出血などの脳血管疾患を発症する原因となります。
ときどき胸が痛くなる、耳たぶに深いシワができる、少し歩くと足が痛くなるが少し休むとまた歩けるようになるなどの症状は、動脈硬化が進行しているサインかもしれません。これまでとは違う症状が出始めたら、早めに医師にご相談ください。
脂質異常症の原因
脂質異常症は、生活習慣病の一つです。
食生活や運動など毎日の生活習慣が、脂質異常症の発症に大きな影響を与えています。
脂質異常症になりやすい人
- 暴飲暴食しやすい方
- 運動不足の方
- 肥満の方
- 脂肪分の多い肉類・乳製品、卵類、内臓類、お菓子などをよく食べる方
- 精神的ストレスの多い方
- 喫煙者
- 高血圧や糖尿病など、他の生活習慣病の持病がある方
- 家族性高コレステロール血症の方
過剰なエネルギー摂取は、コレステロールが増える原因となります。アルコールは中性脂肪を増やします。飲み過ぎはNGです。
運動不足は、食事によって摂取したエネルギーを消費しきれず、肥満や動脈硬化に繋がります。
過剰なエネルギーは脂肪として、体内に蓄えられます。
ハム・ベーコン・ソーセージ・バター・チーズなど動物性脂肪分、卵類、内臓類、お菓子など糖類の過剰摂取は中性脂肪・コレステロールが増える原因となります。
睡眠不足・精神的ストレスが溜まると、血中の脂質を増やしてしまいます。
タバコには、中性脂肪を増やし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を減らす作用があります。
生活習慣病は互いに影響し合うため、他の病気を合併しやすくなります。
家族性高コレステロール血症は、遺伝的にコレステロールが高くなる病気です。
脂質異常症の検査
脂質異常症は、健康診断・人間ドックや、他の病気の検査として血液検査を行った際に発見されることが多い病気です。
健康診断等の結果をお持ちの場合には、受診の際にご持参ください。
問診
自覚症状の有無、体重変化、既往症のほか、喫煙・飲酒・運動などの生活習慣、ご家族に脂質異常症や脳梗塞・狭心症の方はいるかなど、詳しくお伺いします。
血液検査
血液検査では、「総コレステロール」「中性脂肪」「HDL-コレステロール」「LDL-コレステロール」の値を確認します。
血液検査の数値は、受ける数日間の生活や健康状態によって変化します。
健診結果により脂質異常を指摘された方でも、脂質異常が突発的なものか、日常的なものかどうかを確認するために、再度、採血による血液検査を行います。
※健診結果などがない場合には、見極めのため2回目の受診時に再度血液検査を行います。
そのほか、ABI検査 (足首・上腕血圧比)・PWV検査(動脈脈波速度)、頸動脈超音波検査、CT・MRI検査など脂質異常による合併症の検査も適宜行います。
※必要に応じて、対応可能病院をご紹介させていただきます。
脂質異常症の治療について
脂質異常症治療の基本は、食事療法や運動療法を行い、動脈硬化を進行させないようにすることです。動脈硬化による合併症リスクが高いときなどは、薬物療法を併用します。
当院では無理なく続けていけるよう、患者さんとよく話し合いながら、治療を進めています。
食事療法
体が必要とするエネルギー量よりも、多く摂取しないようにすることが大切です。
標準体重を維持するようにしましょう。
適正なエネルギー摂取量の目安は、患者さんの性別や身体活動レベルのほか、肥満度・血糖コントロール・合併症なども考慮して決定します。
また、栄養バランスを考えて、規則正しい食生活を送るよう心がけてください。 できるだけ肉類よりも魚類・大豆類などを多く摂ったり、洋食よりも和食を選んだりすると良いでしょう。
(参考)推定エネルギー必要量|厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020 年版)P.84
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
運動療法
運動には、中性脂肪を低下させ、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を上昇させる働きがあります。
1日30分程度・週3回以上を目安に、ウォーキングや自転車、スイミングなどの有酸素運動を行いましょう。1回10分など短時間の運動を1日数回に分けて行うことや、できるだけ階段を使う、こまめに動くなど、生活の中に軽い運動を取り入れてみるのもおすすめです。
※持病によっては、運動が勧められないケースもありますので、一度ご相談ください。
薬物療法
食事療法・運動療法を行っても、LDLコレステロール値(悪玉コレステロール)や中性脂肪値が下がらない場合には、薬物治療を行います。
患者さんの脂質異常症の病態(LDLコレステロール値が高い・中性脂肪値が高いなど)を総合的に判断して、組み合わせて使用します。
脂質異常症の治療薬 | |
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スタチン系製剤 | 肝臓でのコレステロールの合成を抑える事で、血中のコレステロール値を低下させる働きがあります。 |
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 | 小腸でのコレステロールの吸収を抑える事で、血中のコレステロール値を低下させる働きがあります。 |
フィブラート系製剤 | 主に肝臓での中性脂肪の合成を抑える事で、血中の中性脂肪値を低下させます。HDLコレステロールを増やす働きもあります。 |
EPA、DHA製剤 | EPA、DHAという魚類の油などに含まれる成分から作られた製剤で、脂質の合成を抑制したり、血液を固まりにくくする働きがあります。 |
自己判断によって薬を中止したり、減量したりすることは危険です。
お薬の効き方や副作用など、少しでも気になる点があるときには、必ず医師またはスタッフまでご相談ください。
よくあるご質問
脂質異常症と指摘されましたが、日常では何に注意すればよいですか?
脂質異常症は、食べ過ぎ・運動不足・喫煙・ストレスなど、日頃の生活習慣が主な原因です。まずは、これまでの食生活を見直し、日常生活に軽い運動を取り入れてみると良いでしょう。喫煙している方は、禁煙することをおすすめします。
また、薬物治療を受けていても、食事療法と運動療法は続けて行う必要があります。生活習慣を改善していく中で、薬がより効果的に作用します。
脂質異常症の食事療法のポイントは?
- 食事は、腹八分目にする
- 夜遅くに食べたり、早食いしたりせず、規則正しく1日3食、ゆっくり噛んで食べる
- 主食・主菜・副菜で栄養バランスの良い食事をする
- できるだけ、魚・大豆製品・緑黄色野菜・きのこ・海藻を摂るようにする
<LDL(悪玉)コレステロールが高い人のポイント>
- 食物繊維が多く含まれる野菜・キノコ類・海藻など積極的に摂る。
- 肉よりも魚(青魚)、肉なら鶏のささみ、大豆製品(豆腐・油揚げなど)を摂る。
- 油ならオリーブオイル・ベニバナ油、キャノーラ油など植物油を少量使用にする。
<中性脂肪が高い人のポイント>
- 主食は白米よりも食物繊維が多い「玄米」がおすすめ。
- 果物は控え、間食にお菓子・ジュースなど糖分を摂る習慣を止める。
- アルコールは1日あたり、日本酒なら1合、ビ-ルなら大瓶1本、ウイスキ-ならグラス1杯程度とし、週1~2回はお酒を飲まない「休肝日」を設ける。
- 特に寝る前に食べたり、飲んだりするのは避ける。
まとめ
脂質異常症の放置は、動脈硬化の進行や命にかかわる合併症の発症リスクを高める原因となります。しかし、脂質異常症となっても、脂質をコントロールする生活を続けることにより、合併症を予防し、いつまでも快適な生活を送ることは可能です。
脂質異常症は、生活習慣病のひとつであり、食事と運動による生活習慣の改善が治療の中心となります。また、薬を飲んだら完治する病気ではないので、薬物療法を行っても食事療法や運動療法を続けることが大切です。
脂質異常症と指摘されたら、「早く気づけて良かった」と前向きに捉え、気長に治療を進めましょう。脂質異常症に関するご心配事がありましたら、お気軽にご来院ください。